たぬき通信2 いのちの話

【読みもの】

7月に入って急に暑くなってきました。たぬきが子どもの頃には35度を超えることなんてなかったのに…これも温暖化の影響なのでしょうか。恐ろしや…

さて、世間はもうすぐ夏休みに入りますね。大人も、仕事によってはお盆休みがあったり。

たぬきの夏の思い出でも語ろうかな~…なんて思ったのですが、今回は8月が来るたびに思い出す、ある子の話をしようと思います。

でもね、それは少し重たい、悲しいお話になるかもしれません。命についてのお話だからです。途中で苦しくなってしまったら、最後まで読まなくてもいいよ。


たぬきは少し前、学校という場所で働いていました。そこでたくさんの子どもたちと出会いましたが、その中のある一人の生徒についてのお話です。

その子はとあるクラスの生徒で、一番前の席に座っていました。あまり笑わない子でしたが、ときどきたぬきがくだらない冗談を言うと、ニコッと笑ってくれて、その笑顔がとっても可愛らしかったのを覚えています。


でもその次の年、その子は亡くなってしまいました。8月のとても暑い夏の日、お盆休みの夜のことでした。その子は(みずか)ら、たった一人で、この世からいなくなってしまいました。

その時、その子は自分が他の子と違っていることに悩み、心の病にかかっていました。先生たちや両親、お医者さんやカウンセラー、たくさんの大人たちが救おうとしたけれど、結局救うことができなかった。

その子が残した遺書(いしょ)には、心の病気は治らないと思う、もう疲れてしまった、助けようとしてくれたみんなに申し訳ないと書き残されていました。


こうしておけばよかった、あれが間違っていたんじゃないか、あとからはいくらでも言えました。でも助けられなかった事実は変わらない。

私はその後学校の仕事をやめ、別の仕事をしながら「人と違うということの意味」を考え続けています。その旅は、その子を救える大人であることができなかった自分への後悔とともに、これからも続いていくのだと思います。


それから数年後、ある年の春に息子が生まれました。その日は朝から雨が降っていて、病院の中までザーザーと雨音が響いていました。4月の最初の月曜日でした。

新年度や新学期が始まる4月の最初の月曜日は、自殺する人が多い日です。春は新しい生活にワクワクする人がいる一方で、また繰り返される一年に絶望する人や、新しい年に希望が持てない人もたくさんいます。

病院のテレビに何度も人身(じんしん)事故(じこ)のニュースが流れていくのを、私はじっと見ていました。そして、あの日ひとりぼっちで天国へ行ってしまったあの子のことを思い出していました。

そして静かに、今日生まれてくるこの子がどうか人生を最後まで(まっと)うすることができますようにと祈りました。

生まれた息子には、人生を最後まで生きられるようにという意味を込めて名前をつけました。




命について思うことはたくさんあります。日常の中で、命について考えることもたくさんあります。ただこの時期にあの子のことを思うことだけは、毎年変わりません。

あれから時間が経って、思っていることも気付いたこともたくさんあるけれど、それを口に出すことも、誰かに伝えることもせずに生きています。

きっとそうするには早すぎるからです。もっと考えて、考えて、人生の時間をかけて考え抜いて、ようやく言葉にできるような気がします。あの子の命の話は、それだけ重みのあることだからです。


君がもしこの通信を読んで何かを思ったり考えたとしたら、それをきっかけに、命についての思いや考えを心の中であたため続けてほしいです。そして大人になっても、あたため続けてほしい。そうやって考え抜いた先に、いつか命について語るべき時が来たら、自分の言葉で語ってみる。

その言葉は重みをもって相手に届いて、きっと誰かの命を救うと思うのです。



たぬき

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