ハラスメントとは?
最近「○○ハラスメント」ってたくさん聞きますよね。
十数年前は「セクハラ」という言葉はよく聞きましたが、やがて「パワハラ」という言葉をよく聞くようになり、ここ数年では「マタハラ」「アルハラ」「モラハラ」…と、ハラスメントとして聞く言葉の種類がどんどん増えてきています。
ハラスメントという言葉は英語で、日本語にすると「嫌がらせ」。
それって「いじめ」みたいだね、と思った人、するどいですね。
いじめとハラスメントはどう違うの?というと、違いません。同じです。
人の嫌がることをするのがいじめでありハラスメントなのです。
いじめにもハラスメントにも、大事なポイントが1つあります。それは、「わざと」かどうかは関係ないってこと。
嫌がらせって言うと、なんだか陰でこそこそ嫌なことを仕掛ける…みたいなイメージがありますが、本人が悪気がなく堂々と言った言葉で相手が深く傷ついたら、それも立派なハラスメントになります。いじめも同じだよね。「悪気はなかった」「ふざけてるつもりだった」って言ったら許されるわけじゃない。それは、いじめやハラスメントについて考えていく上で絶対に忘れてはいけないポイントなのです。
さて、ここからは代表的なハラスメントについて紹介していこうと思います。聞いたことのあるものも、そうでないものも、どれも実際に嫌な思いをした人がいることだから、真剣に読んでくれると嬉しいです。
①セクハラ(セクシャルハラスメント)
セクシャルというのは、「性的な」という意味。体の性、心の性に対して、嫌な思いをさせることをセクハラといいます。
例えば、会社の同僚(一緒に働く仲間)に急におしりを触られたら、怖いし気持ち悪いよね。聞かれたくもないのに「恋人はいるの?」としつこく聞かれたら嫌だよね。容姿(見た目)について「胸が大きいね」とか「筋肉がすごいね」とか言われたら、なんか気持ち悪いよね。こういったものが性的な嫌がらせ、セクハラです。
また、セクハラについて「男の人が女の人にする」と誤解している人も多いんだけど、性別は関係ない。女性が男性にセクハラをすることだってあるし、同じ性別でもセクハラはある。相手が嫌だと思えば性別は関係ないし、男の人だって嫌な思いをしたら「セクハラを受けた」と声を上げていいのです。
②パワハラ(パワーハラスメント)
名前に「パワー(力)」という言葉が付いているのは、自分よりも立場が強い、パワーを持っている人にされるハラスメントだから。
会社だと、上司から部下へのパワハラ。
たとえば部下が何か失敗をした時、たたいたり大声でどなり続けたり、ひどい言葉をあびせ続けたり。気に入らないからといって職場のみんなに無視をさせたり、絶対にできない量の仕事を押し付けたり。先輩や上司などの目上の人に対して抵抗できない(立ち向かえない)のをいいことに、どんどんエスカレートしていく(ひどくなっていく)ことも多い。
人間はパワーを手にするといつの間にかまちがった使い方をしてしまうことがあるから、本当に気をつけなきゃいけない。また、自分がパワハラを受けた時に会社に相談しづらいから、抱え込んだまま我慢してしまう人も多い。
③モラハラ(モラルハラスメント)
モラルというのは道徳(人として守るべきルールや思いやり)という意味。
モラハラは、人としての尊厳(人間らしく生きること)を深く傷つける嫌がらせのこと。
たとえば無視をしたり、人格を否定するようなひどい言葉(「生きている価値がない」「役立たず、ダメ人間」など)を言われたり。
またモラハラは、家庭内でも起こりうることが問題視されています。夫婦のどちらかが相手を支配するような状況になっていて、「生きている意味がない」とか、「誰のおかげで生きていられるんだ」などの暴言(相手を攻撃する言葉)を言ったり、相手の生活や行動を徹底的に(完全に)管理して支配したり。もちろん夫婦だけでなく、親戚との間や、いたるところでモラハラは起きている。
④アルハラ(アルコールハラスメント)
アルコール(お酒)を強要する(無理やり飲ませる)嫌がらせのこと。
たとえば会社の仲間たちとご飯を食べに行った時、飲みたくないのにお酒を飲まされたら辛いよね。体調が悪かったり、もうこれ以上飲めないほど酔っ払っていたり、お酒が身体に合わなかったり、そういう飲みたくない状況で、お酒を飲まされるのがアルハラ。
断ればいいじゃんと思うかもしれないけど、上司に勧められたり、怖い先輩に勧められたり、盛り上がっている場の空気にのまれて断れないことがある。そういう断れない状況を作って飲ませる悪質なアルハラがすごく多い。
また、社会人だけでなく大学生の飲み会でのアルハラも問題となっている。お酒の弱い学生に大学の先輩たちが無理やり飲ませて、急性アルコール中毒(急に大量のアルコールを飲むことで体や脳がダメージを受けること)になって亡くなってしまった人はたくさんいるんだ。たかが飲み物でしょ、と甘くみてはいけない。
⑤マタハラ(マタニティハラスメント)
マタニティとは妊婦のこと。お腹に赤ちゃんがいる女性や、子どもを産んだ後の女性に対して、嫌なことを言ったり困ることをすること。なぜ妊婦に嫌なことをするの?と思うかもしれないね。
お腹の大きい妊婦さんがいたら、電車で席を譲ったり、みんなで助けてあげるべきだよね。おめでとうって、体に気をつけてねって、声をかけるべきだよね。でもそれが仕事や会社になると、いじわるをされることがある。
なぜかというと、会社で妊婦さんや子育てをしている女性がいると、その人が無理をしないように短い時間しか働かない分、別の誰かが多く働いたりしなければならないから。お腹の中で赤ちゃんを育てることも、産まれた赤ちゃんを育てることも、ものすごく大変なこと。だからみんなで協力するのはあたりまえのことなんだけど、それをズルいと思って、嫌がらせをする人もいる。
「あなたのせいで迷惑している」と言ったり、「育休(産まれたばかりの赤ちゃんを育てるためのお休み)を取るな」と言ったり、育休を終えて会社に戻った時に元の仕事をできないようにしたり。
また悪気がなくても、「女なんだから仕事やめて家庭に入れば」など、古い価値観(考え方)を押し付けるのもマタハラ。女性が出産も育児も仕事もできるように助けることが社会の本当の役割なんだ。
ちなみに最近では、「パタハラ(パタニティハラスメント)」といって、子どもが生まれた父親に対するハラスメントも社会問題になっています。
自分の子どもを育てるために育休を取ろうとすると「男なんだから育休は取るな」と言われたり、育休から戻ったら元の仕事をさせてもらえなかったり。子どものために働く時間を短くしたら迷惑だと言われたり。自分の子どもを育てるのは父親も母親も同じなのに、男性がやろうとすると社会から嫌がらせを受けることがあります。このパタハラもまた、「女は働かずに家のことだけして、男は家のことはせず仕事だけしていればいい」という古い日本の価値観がもたらした社会問題だと言えるね。
さて。世間でよく聞く5つのハラスメントを紹介しました。
ここで一つ確認しておきたいことがあります。それは、
ハラスメントはいつも1種類とは限らない、ということ。
たとえば上司が部下に「付き合おうよ」としつこく迫って、断られたら仕事をやめさせる。これはセクハラでありパワハラだよね。
上司が部下にひどい暴言を言ったら、モラハラでありパワハラ。
ハラスメントの種類を分かりやすく名前をつけているだけで、実際にはいろいろなハラスメントが混ざり合って人々を苦しめていることも多いのです。
他にどんなハラスメントがある?
では、今回紹介した5つのハラスメントのほかにどんなハラスメントがあるのか、ちょっと並べてみましょうか。
ジェンハラ(ジェンダーハラスメント)
…性別に関する差別をすること
エイハラ(エイジハラスメント)
…年齢で相手を差別し嫌がらせすること
フォトハラ(フォトハラスメント)
…相手の許可なく撮った写真を勝手にネットにあげるなどして使うこと
マリハラ(マリッジハラスメント)
…独身の人(結婚していない人)に、結婚することや人と付き合うことを必要以上にすすめること
ブラハラ(ブラッドタイプハラスメント)
…血液型で人を差別して嫌がらせすること
などなど。調べれば数えきれないほどのハラスメントが出てきます。
でもこれほどハラスメントという言葉が広まったのはここ十数年のあいだのこと。
「昔はこんなに◯◯ハラスメントなんて無かったのになあ、生きづらくなったなぁ」
なんて言う人もいます。
でもそれはきっと、ハラスメントを受けていた生きづらい人が生きづらいまま、我慢しながら生きていたということだとたぬきは思います。
「相手の嫌がることはしてはいけない」というとてもシンプルなことを、できない人がきっとあまりにも多くて、わざわざ「◯◯ハラスメント」なんて名前を付けないと問題に気付けない社会だったのかもしれない。
だから今こんなにたくさんの「◯◯ハラ」が生まれているのだとたぬきは思います。
目に見えない生きづらさが、名前を付けることで目に見える生きづらさに変わり、それに立ち向かう仕組みが少しずつできてきた…といった感じでしょうか。
みんなが大人になった時に、少しでも生きやすい社会になっていますように。
ハラスメントを受けたら?
自分がハラスメントを受けて困っている時には、どうか必ず人に相談してくださいね。
もちろん、やめてくださいと直接言って解決すればいいのですが、それがなかなか言いづらい状況の時にハラスメントは起こりやすいです。
働いている場所の上司だったり、地域の相談窓口だったり、それが難しい時には匿名で(自分の名前を相手に知られずに)電話相談できるサービスを使ってみるのもいいと思います。他人に話すのは怖いからまずは家族や友人に話してから、でもいいです。
「○○ハラスメント 相談」と自分の悩んでいるハラスメントをネットで検索すると、相談先が出てきます。
「これってハラスメントですか?」と自分がされたことを話してもいいし、解決するために何をすべきかを相談するのもいいです。国や市が設置している相談窓口では、直接ハラスメントのある会社にはたらきかけてくれるところもあります。
何より大事なのは、そのままにしておかないこと。
自分が我慢すれば済むから…と思っていたら、いつかまた別の誰かが同じ目にあうかもしれない。
ハラスメントは、日常にあふれています。今日は我慢できる、今日はまだ大丈夫…と思っていたら、いつの間にか心が壊れていることもある。
自分は必要のない人間だと思えてきたり、人を信用するのが嫌になってしまったり。そんな思いから、ハラスメントが原因で自ら命を絶ってしまう人は毎年たくさんいます。
そういう人たちがもし早めに誰かに相談できていたら、亡くならずに済んだのかもしれない。だから国や地域にはたくさんの相談窓口が設置されているし、ポスターやCMでもハラスメント防止について呼びかけているのです。
自分がハラスメントをしないために
最初にも話したように、ハラスメントはいじめと同じで、悪気がなくても相手が嫌だと思えばハラスメントになる。逆に言うと、同じことをしても相手が嫌だと思わなければハラスメントにはならない。だからときどき、「自分は許せることだから、相手も許してくれると思った」なんてことになるわけですね。
そうならないために大切なことが3つあって、
1つは、相手がどういう人で、どういう気持ちになるかをいつも考えながら他人と接すること。自分だったら傷付かないから、ではなくて、この人はどんな気持ちになるか、という目線で考えてみる。
2つめは、誰かが傷付くかもしれない言葉や行動は、はじめから言わない、しないこと。この人なら許してくれるでしょ、という思い込みはしないこと。
3つめは、「人を傷付けずに生きることは難しい」ということを、知ること。
自分は優しい、人を傷付けることなんてない、と思っていても、思わぬ形で人を傷付けていて、それに気が付かないことがある。悪気がなくても人を傷付けているかもしれない、と心のどこかで注意しておくだけでも、相手の気持ちに気付きやすくなるはずです。
この社会のみんながただ生きるのではなく、より良く生きることができたら、ハラスメントはなくなるのかもしれませんね。
というわけで、今回はハラスメントについてのお話でした。
ではまた次回お会いしましょう~
たぬき