「性別」と聞いて、あなたはどんなことを思い浮かべますか?
体のちがい?
「男」と「女」?
今日のテーマは「ジェンダー」。「性」という意味。
女「性」、男「性」の「性」だけど、体のことではないんだ。
ジェンダーとは、社会がつくり出した「女性らしさ」「男性らしさ」のこと。
さあ、それってどういうことだろうか?
わたしが「女性」であることと「女性らしい」ことはどう違うの?
ぼくが「男性」であることと「男性らしい」ことはどう違うの?
今回はそんなことを考えてみよう。
女性?男性?考えてみよう
では、これからいくつかの質問をするから、一緒に考えてみよう。
①「料理長」や「シェフ」と聞いたら、どんな人を思い浮かべるかな?
イメージしてみよう。絵に描いてみてもいいね。
どんな見た目の人を思い浮かべたかな?
この質問をすると、日本では「男性」をイメージする人が多いんだ。
それはきっと、普段お店やドラマで見かける「シェフ」が男の人であることが多いからだね。
お店の奥で料理を作っていたり、みんなに指示を出している偉い人は男の人のイメージが強くあるようだね。
ではそれはなぜだろう?
なぜ女性のシェフは少ないんだろう?
あとから答えを一緒に考えるので、まずは自分で予想してみよう。
それじゃあ、次の質問にいくよ。
②日本では男性しか総理大臣になったことがない。なぜだろう?
日本の政治家はたくさんいるけれど、男性が多くて女性は少ない。
それでも近年は女性政治家の割合(男性に比べた女性の数)を増やそうという動きが進んできているよ。
では一番トップの総理大臣はどうだろう。
2023年時点では、総理大臣に女性がなったことは一度もない。
なぜだろう?
「男性のほうが人数が多くて、政治家も男性が多いんじゃない?女性が総理大臣になっていないのはたまたまなんじゃない?」と思った人もいるかもしれないね。
日本の人口のうち、男性と女性の数はほとんど同じで、少し女性が多いんだ。
それなら、政治家も総理大臣も、男性と女性で同じくらいの割合になるはずだよね。
でもそうならないのはなぜだろう?
ちょっと難しいけれど、考えてみよう。大人と一緒に考えてみてもいいね。
では、次の質問にいくよ。
③昼間にスーパーに行くと、赤ちゃんや子どもを連れているママとパパ、どちらを多く見かけるだろう?
思い出してみよう。どっちを見ることが多かったかな?
これは日本のどの地域でもママ(女性)が子どもを連れていることの方が多いと言われているよ。さて、それはなぜだろう?
昼間に子どもを連れているママが多いとしたら、パパはその時どこにいるんだろう?
そうだね、お仕事をしているパパが多い。
それってパパとママが逆でもいいはずだけど、日本では子連れのママがパパよりもずっと多く見られる。
じゃあ、それってなんでかな?
ゆっくり考えて、予想してみよう。
それでは最後の質問だよ。
④黒いランドセルが落ちていた。女の子か男の子、どちらのものだと思う?
黒いランドセルを背負っているのは、女の子と男の子、どっちが多いかな。
日本中でランドセルを使っている子どもはたくさんいるけれど、黒を使っているのは男の子が女の子よりもずっと多い。
それってなんでだろう?
好きな色って人それぞれじゃないのかな?
男の子のほうが、女の子より黒が好きなの?
うーん?あれれ?難しいね。
さて、ここまでいくつか質問をしたけれど、君はどう考えたかな?
女性らしい生き方、男性らしい働き方?
日本では「女性らしい生き方」「男性らしい生き方」が昔から決まっていて、それが今でも社会に残っているといわれている。
その中に、「家事と子育ては女性がするべき」「仕事は男性がするべき」という考え方がある。
今ではその考え方もずいぶん変わってきているけれど、考え方が変わっても社会のしくみが追いついていないところがあるんだ。
それが、今の社会を生きる人たちを苦しめたり傷付けたりしている。
たとえば、子育てや家事を積極的にしたいという男性はたくさんいるけれど、日本は子育てのために男性が仕事を休んだり仕事をやめたりすることがまだまだ難しい。
だから昼間にスーパーに行くと、子どもを連れた女性の方が多いわけだね。
逆に子どもができると、男性の代わりに女性は仕事をやめたり減らしたりして子育てに時間を使う人が多い。
それがあたりまえになってしまうと、シェフや政治家や総理大臣のような、責任が大きくて忙しかったり、時間の都合がつきづらい仕事を子どものいる女性がすることはとても難しくなってしまう。
「子育てと仕事の両立」は女性にとってすごく難しい問題になっている。
これを解決するには、女性だけでなく男性も育児に時間を使いやすい社会にすることや、責任ある仕事の働き方を子育てと両立できるようにしていくことも大切だといわれているよ。
どちらも社会全体で取り組まなきゃいけないことだから、すぐにできるような簡単なことではないけれどね。
また、「仕事は男性のもの」という考え方が残っている社会もある。政治の世界では今でも「男性社会」と言われている。
仕事において、男性である方が働きやすかったり出世しやすかったりするという意味。
表向きには言わなくても、「女性は子どもができたら仕事を休んだり働ける時間が少なくなるから出世させないほうが良い」と考える会社は実は今でもたくさんある。
そんなのいじわるじゃん!と思うかもしれない。たしかにそう聞くとひどいと思うよね。
でも長くそういった考え方で働いてきた人や会社にとっては、仕事をスムーズに回すためにあたりまえのことだったりする。
悪気がなくて、あたりまえの、仕方のないこととして考えている人たちもいるということだね。
そこには考え方の大きな壁がある。
そこで大事なのはケンカをすることではなくて、誰もが働きやすい職場にするために、そういったしくみを少しずつでも変えていくこと。働く人たちが声をあげて、会社はその声にきちんと耳をかたむけること。
それは政治の仕事でもあって、だからこそ女性の政治家が増える必要があるのだけどね。
逆に、勝手に「女性の仕事」というイメージがついているものもある。保育士や看護師は男性よりも女性がすごく多い。これは子どもの面倒を見たり人の看病をするのは女性の仕事、という昔の考え方のなごりだと言われている。
男性に生まれた人は子どもや病気の人のお世話をするのは向いていない?ヘタ?女性に生まれた人はみんな得意?なのかな…?
私たちは、みんな一人ひとり得意なことも苦手なことも違うね。
あなたが得意なこと、苦手なことは、あなたが女性だから、男性だからなのかな?
ちがうよね。あなただから、だね。
私たち一人ひとりが好きなものや嫌いなものが違っているように、生き方もその人の数だけあっていい。
でも日本では、それがまだ型にはめられているということだね。
たとえば男性だって、大好きな子どもたちとたくさんの時間を過ごしたり家事をこなしたりする「専業主夫」として生きる道があっていい。
子育てや家族との時間を制限されたり、「男なんだから仕事しなきゃ」なんて言われる筋合いはないよね。
女性だって、子どもを産んだ後も自分のしたい仕事を続けていきたい人はたくさんいる。そんな時に「子育てで周りに迷惑をかけるから別の仕事をしてよ」なんて言われたら苦しい。
そもそも子どもを産んだって産まなくたっていい。結婚したってしなくたっていい。女性はみんな母親になるのが正解ってわけじゃないんだから。
家事をするのは女性、女性の方が料理は得意なはず、そんなわけないよね。
あたりまえだけど、人によるよね。
これを書いているたぬきも、料理は好きだけど掃除は苦手。でもそれって性別とはなにも関係ない。自分という人間がそうだっただけだもの。
ランドセルの色だって人それぞれ違っていい。
今はランドセル以外のかばんで学校に行く人も増えたけれど、
昔はなぜか、全員がランドセルで、色も男の子が黒、女の子が赤って決まっていたんだ。
たぬきが子どもの頃にはランドセルはこの2色しか売っていなかった。
まるでトイレの標識みたいだよね。男は青で女は赤。
毎日自分が使うカバンの色は、自分の好きな色がいい。社会が決めた性別の色ではなくて。そう思うのはあたりまえだよね。
考えてみると、どうやら私たちの周りには目に見えない性別の線引きや型がたくさんあって、じわじわと私たちの生き方をせまくしているみたい。
じゃあ、それって日本だけなのかな?
次は、世界の中で日本のジェンダーはどんなふうに見えているか考えてみよう。
世界から見た日本のジェンダー~日本は「遅れている」国?~
男女で生き方に差があって、時には不平等が生まれている。
こうした男女の生き方の不平等を数字であらわした、「ジェンダーギャップ指数」というものがあるよ。
毎年、世界中の国の数字を比べて順位が出されるのだけれど、2023年、日本は何位だったと思う?
世界には196の国があって、そのうち146か国のジェンダー指数を調べた調査では、
日本のジェンダーギャップ指数はなんと125位。
(順位が低いほど男女の不平等が大きいということ)
アメリカや中国、韓国、イギリス、ドイツ、フランス…みんなが聞いたことのある先進国(経済が発展している国)のほとんどの国より下なんだ。
世界の中で日本はかなり発展している豊かな国でありながら、ジェンダーについてはかなり「遅れている国」だということ。
これは2023年だけではなくて、実は日本はこれまでもずっと、世界からジェンダーについて「遅れている国」と言われ続けているのです。
毎年調査があって、毎年「日本のジェンダーの問題」についてニュースになったり国会で話題になったりするのだけど、これがなかなか改善されない。
人の考え方だけでなく社会全体のしくみが古いままだから、それを変えていくには時間と労力がかかる(大変だということ)。
それにしても「日本はもう少し真剣に、急いでジェンダーの問題を解決しなさい」と世界から言われているんだけどね。
(世界が1つの学級だとしたら、担任の先生やクラスメイトから何度も注意されている感じだね)
この調査は「健康」や「教育」などいろいろな方向で調べて総合順位を出しているんだけど、
日本は「教育」では男女平等を実現できていて点数が高い。男女とも同じように学校に通ったり勉強することができる国だからね。
一方で「政治」の点数は低い。さっきの話にもあったように、女性の政治家が少ないことが原因なんだ。
国の方向性を決める政治に女性の政治家が十分に参加できていないのは世界でも大きな問題だと考えられている。
もう一つ深刻なのは「経済」の点数。これも政治と同じようにかなり低い。理由は、女性が社会や仕事で十分に活躍できていないこと。
・働いている人の割合が男性と女性で差があったり(男性の方が多い)、
・同じ仕事をしていても男女でもらえるお金の額に差があったり(男性の方が多い)、
・出世して管理職(より責任のある役割)についている人に差があったり(男性の方が多い)。
この「経済」の項目の点数が低いということは、日本では「働き方が男女で分けられてしまっていて、それがあたりまえになってしまっている」ということを意味するんだ。
その人によって、どんな働き方をしたいかはバラバラなはずなのにね。
「あなたは女性だからだいたいこんな働き方だよ」
「あなたは男性だからこんな働き方をするべき」なんて決められるのは変なんだけど、それが昔からずっと続いていて今も残っているわけだね。
ちなみに1位はアイスランド。14年連続1位の、ジェンダーにおいては優等生の国だね。
他の国の順位も気になったら、ぜひ調べてみてね。
君の望む生き方はなんだろう?
「ジェンダー」について、少し分かってきたかな。
でもね、この「ジェンダー」はもっともっと奥が深いんだ。
専門で研究する学者さんがいるくらい、複雑で難しい問題なんだよ。
君は、どんな生き方をしたい?
その生き方が社会の作り出したジェンダー(男性らしい生き方、女性らしい生き方)にあてはまっていたら、きっと生きやすいだろうと思う。
そうでなかったら、大変なことが多いかもしれない。
でもそうだとしても、その生き方は間違っていないし、あきらめなくていいということ。
だって君が女性だろうと男性だろうと、誰だって自分の望む生き方をする権利があるのだから。
そして、そんなふうに自分の望む生き方とジェンダーとのあいだで戦っている人がいたら、どうかその人らしい生き方を応援してあげてほしい。その人が女性だろうと男性だろうと関係なく。
そういう応援がこの国に積み重なって、少しずつ社会が変わっていっている。こうしている今も。
もう一度聞くから、大人になるまでに、ゆっくり何度でも考えてみてほしい。
君は、君自身は、どんな生き方をしたい?
さて。今回はジェンダーについてのお話でした。
話の中で「男性」と「女性」という二つの性が登場したけれど、実は性はこの二つだけではないよ。
女性でも男性でもない性がたくさんあるのを知っているかな?
次回はそんなさまざまな性について一緒に考えてみよう。
それではまた次回!