前回の「あれなに図書館」は、「ジェンダー」についてのお話でした。
社会がつくり出した「男らしさ」「女らしさ」って一体どういうことだろう?ということについて考えていきました。
今回は、「男性」「女性」以外の、いろいろな性のかたちについて見ていきましょう。
性別って、男と女だけじゃないの?
と思った人もいるかもね。
学校では男の子と女の子に分けられる場面はけっこうあるよね。
大人になっても、病院で書く問診票や会社に出す履歴書などの「自分について説明する書類」には男女どちらかに〇をつけるようになっていることが多い。
じゃあやっぱり性別は2つってことじゃん!
どうだろう、こんなふうに考えてみてほしい。
「体の性と、心の性は、べつのもの」。
今回の話では、この考え方がカギになるよ。
今までそんなふうに考えたことがなかった!という人もいるかもしれないね。
1人の人間なのに、体の性と心の性が別々にあるって、どういうことだろう?
体の性は誰がどうやって決めるの?
私たちの体って、みんな同じ?
人間は、みんな同じ形や同じ大きさ?
ちがうよね。身長、体重、顔の形、手のしわ、一人ひとり全然ちがう。
そんなみんなバラバラの体をもっている人間を、「体のつくり」に注目して大きく2つに分けたのが「男性」と「女性」という体の性。
筋肉や脂肪の付き方だったり、お股のつくりだったり、「男性の体はだいたいこんな感じ、女性はだいたいこんな感じに成長していく」というのが決まっている。
どうやって決まっていると思う?
それは誰かが決めるわけではなくて、生まれ持った「染色体」というもので決まる。これはまったくの偶然で決まる。
あなたの体が男の子や女の子なのは、たまたまなんだ。
遺伝子って聞いたことあるかな?イメージは同じだよ。人間の中に入っているデータのようなもの。
男の子は男性の染色体を持っていて、女の子は女性の染色体を持って生まれてくる。
もしあなたが女性としてのデータを体の中に持って生まれてきたならば、あなたの体の性は女性ということ。
ということは、体の性は自分では選べないんだ。
あなたは生まれてくる時、「男の子になるぞ!」とか「女の子になりたい!」と思って生まれたわけじゃないよね。
最初はなにも分からない赤ちゃんとして生まれてきて、ある日気が付いたら、自分は女の子だったり、男の子だったりしたはず。
その時、どう思ったかな?
「あ、自分は女の子なんだあ。へえ~」
って、とくに何も思わなかった人もいれば、
「ぼくは男の子だ!へへん!」
とうれしい気持ちになった人もいるかもね。
じゃあ、こんな気持ちになった人もいると思わない?
「みんなに女の子って言われるけど、ちがうよ。男の子だよ」
「体は男の子だけど、自分では自分のこと、女の子だと思うなあ」
体の性は生まれつき勝手に決められているけれど、それが心の性と同じとは限らないよね。
だって心は、あなただけのもの。勝手に決められるものではないから。
体は男の子だけど心は女の子。そんな子がいるのも全然ふしぎなことじゃないというわけ。
じゃあ心の性は、男か女かの2つだけ?
いいえ。体の性とちがって、心の性のかたちはたくさんあります。
だって体以上に、人の心って人それぞれ全然ちがうから。
ジェンダー・アイデンティティ~いろいろな心の性~
心の性のあり方を、「ジェンダー・アイデンティティ」というよ。
ジェンダーというのはここでは「性」のこと。
アイデンティティというのは「自分らしさ」をあらわす言葉。
自分らしい性のかたちは人それぞれ。
どんなかたちがあるか、見てみよう。
自分にぴったりの性があるかもしれないね。
★エックスジェンダー…心の性が男性と女性以外にある人
★ジェンダーニュートラル…中性(女性と男性のあいだの性)の人
★エイジェンダー…性別はないと感じる人
★ジェンダーフルイド…性が1つに定まらずゆれ動く人
★クエスチョニング…自分の性をさがしていたり、考え中の人
このように、いろいろな性のかたちがあるよ。そしてこれ以外にもたくさんの性がある。まだ名前のない、新しい性のかたちもあるかもしれない。性のかたちは本当にさまざまなんだ。
トランスジェンダーとシスジェンダー
あなたの体の性と、心の性は同じかな?
もし同じなら、そういう人を「シスジェンダー」という。
一方で、体の性とはちがう心の性をもっている人を「トランスジェンダー」という。
トランスジェンダーは「体は男性だけど心が女性」「体は女性だけど心が男性」のどちらかだと思われていることが多いけど、そうではないよ。
体の性に対して、なんかちがうなあと違和感や不安を感じている人もトランスジェンダー。
もちろん、あなたがどちらであってもいい。
シスジェンダーとトランスジェンダー、こんなふうにわざわざ名前をつけて分ける必要があるの?と思う人もいるかもね。
いろいろな性のかたちに、どうして名前がついていると思う?
どうして性に名前がついているの?
性のあり方に名前がついているのは、いろいろな理由がある。
性のあり方について、学問として研究している人がたくさんいる。性のかたちについて名前をつけていた方が、考えをまとめやすかったり、人に伝えやすかったりもする。
自分の性のあり方に「男性」や「女性」のように名前をつけたいと感じる人もいる。そうすることで同じ性の人どうしで助け合ったり、つながりやすくなったりもする。
世の中の性は男性と女性の二つだけだと思っている社会に対して、名前を付けることによって「こんな性もあるんだ」ということを示したりもする。
名前が付いていることで、ドラマやポスターで「トランスジェンダー」などの「言葉」としてあらわされて、社会にその言葉と意味が広がっていく。そうやって性について理解がすすんでいくこともある。
世の中には「ふつう」という性はない。体の性と心の性が同じ人の方が数は多いけれど、それがふつうで、他の人が変というわけではない。「ふつう」ではなく「シスジェンダー」という名前がついていて、一つの性のあり方にすぎない、ととらえることができるね。
性に名前がついているのはこんなふうに様々な理由や意味があるけれど、
逆に、わざわざ名前を付けて区別されることが嫌な人だってもちろんいる。
性のあり方について人と話す時には、相手の思いによりそって、相手を傷付けない言葉や方法で接することが大切だね。
異性が好きとは限らない?~「好き」のあり方~
女性は男性が好き。男性は女性が好き。…に、決まってる?
性のあり方はさまざまなのに、「好きのあり方」はこれだけ?
そんなわけないよね。
「好きのあり方」だって、さまざま。たとえばこんな「好き」のかたちがある。
(ここでの好きは、お友達としてではなく、恋愛としての好き、だと考えよう)
★ゲイ…男性を好きと感じる男性のこと
★レズビアン…女性を好きと感じる女性のこと
★アセクシャル…どの性も好きとは感じない人のこと
★バイセクシャル…男性も女性も好きと感じる人のこと
★パンセクシャル…あらゆる性の人を好きと感じる人のこと
もちろん「好き」のあり方も、これ以外にもたくさんある。自分の好きのあり方がこれ以外だよという人もいるかもしれないね。
「好き」のあり方も、人の心の中にある。だから人それぞれちがってあたりまえ。
「男の子が好きってことはあなたは女の子なんでしょ」なんてことはない。
体は女性だけど、私の心の性は男性。そして自分と同じ男性のことを「好き」と感じる。
たとえばそんな性のあり方があったっていい。
あなたの性のかたちはなんだろう
あなたは今、自分の性をどう思うだろう。
はっきりとわかる人もいれば、そうでない人もいるかもしれない。
人生の途中で、性が変化していく人もいる。
私たちはロボットではなくて、人間という心を持った生き物だから。
人の数だけ性のかたちがあって、それをお互いに認め合えたら、もっとみんなが生きやすい世界になる。
性と心はつながっている。自分の心を大切にするように、どうか自分の性も大切にしてほしい。
そして他の人の性も、同じように大切にできるといいね。
さて、今回はいろいろな性のかたちについて一緒に考えていきました。
それではまた次回お会いしましょう!